2012年4月17日火曜日

尼崎市長への要望書

2012年4月10日
尼崎市市長 稲村 和美 殿
放射能汚染されたガレキの処理について考える尼崎ネットワーク
  
瓦礫の広域処理を受け入れずに、
被災地支援の充実を求める要望書

1  陳情の趣旨

 私たちは、放射能汚染から尼崎市の大地と空気と水を守り、子どもたちの健やかな成長と、被災地支援の充実を強く希求するものです。
瓦礫の広域処理には、被曝リスクという点からも、被災者支援という人道上の理由からも、市政の未来を考える上からも、根本的な問題があります。
尼崎市民が現在および将来的にも、健康で安全かつ快適な生活を送れるよう、また、被災地復興支援の充実を求めて、以下の二点を要望いたします。

1)瓦礫の安全性が確保されていないので、瓦礫の広域処理を受け入れないでください。
2)被災地支援については、被災者の受け入れの継続や、民間の支援活動への援助などを検討してください。


2.陳情の理由

(1)産業廃棄物、化学物質、重金属が含まれている瓦礫は、一般焼却所で対応できません
震災によって生じた瓦礫には、アスベスト、ヒ素、六価クロム、PCBなどの、特別管理産業廃棄物、化学物質、重金属が含まれており、政府の進める方法では、これらを完全に測定、分別することはできません。一般の焼却炉は、産業廃棄物の処理に対応していません。
一般ゴミに含まれるレベルの化学物質、重金属は、薬剤処理などで処理できる可能性はありますが、震災によって生じた瓦礫に含まれる、それら有害物質の総量は未知数です。したがって、そのような瓦礫を一般の焼却炉で焼却することは、有害物質の拡散、汚染を広範囲にわたって引き起こす二次災害の発生が強く懸念されます。

(2)放射性物質が含まれる瓦礫を一般焼却炉で処理することは、安全性が担保されていません
福島第一原発事故により、放射性物質による汚染は広範囲に及んでいます。震災後一年以上も屋外に放置された瓦礫には、それまでに降下した放射性物質が付着しています。放射性廃棄物は、本来、厳重に管理・処分すべきであり、一般焼却場で焼却すると、焼却所作業員が被曝し、周辺住民も被曝するおそれがあります。
そもそも環境省は、昨年6月に岩手県・宮城県の瓦礫を広域化処理する方針を出した時点では、放射能汚染は福島県だけにとどまるとし、岩手県・宮城県の瓦礫の放射能汚染を視野に入れていませんでした。その後に稲わらや焼却炉の焼却灰が高濃度に汚染された事例が重なり、両県の露天に長く置かれていた瓦礫の放射能汚染が事実として認められました。本来であれば環境省は、瓦礫の広域処理の方針の前提条件が違ったことが判明したこの段階で、一旦撤回すべきだったのです。
ところが、環境省の検討委員会の大迫政浩・国立環境研究所資源環境・廃棄物研究センター長が、ぜん息や肺がんを引き起こす可能性のある「PM2.5」という粒子状物質は、バグフィルターで「99.9%以上(除去できる)」のだから「(放射性セシウムなどの)元素も捕集される」とした資料を提出し、「机上の仮定の数字が多い」(酒井伸一・京都大学環境科学センター長)と批判的な意見が出されたにもかかわらず、環境省は裏付けのないデータを採用したと報道されています。
また、バグフィルタメーカー7社の日立プラントテクノロジー、日鉄鉱業、明和工業、富士工機、瑞東産業、流機エンジニアリング、飯田製作所に問い合わせると、7社とも『放射性物質を除去できない』と回答されたとの情報もあります。
 福島市では、高機能のバグフィルターを使っても、放射性セシウムが大気中に放出される寸前の煙突部分で検出されたという指摘がされています。今年222日の大阪市議会では、東京都大田区の清掃工場での試算に基づいて検討した結果、焼却炉に投入された放射性物質のうち約36%が行方不明になり、焼却炉などの設備に残留、および、約11%が煙突から排出されている可能性が指摘されています。
 断言できることは、引き受ける瓦礫の放射能汚染が基準値以下であっても、焼却される瓦礫の総量によっては、莫大な放射性物質が近隣環境に放出されるということです。たとえば、放射性セシウム100ベクレル/kgの瓦礫を1万トン焼却したときに出る灰に含まれる放射性セシウムは、総量で10億ベクレルになります。上記、10億ベクレルのセシウムのうち、きわめて低い試算として0.01%が焼却場の煙突から漏れると、大気中に10万ベクレルが放出されることになります。
なお、瓦礫に付着した放射性物質は、焼却時の温度が高いと気化して大気中に拡散される一方、焼却時の温度が低い場合は、灰への濃縮が進みます。そのため、瓦礫の焼却を始めると、炉の管理が困難になります。炉のフィルター交換や、炉の解体時には、放射性廃棄物に汚染された施設として、作業員や近隣住民の被曝を防ぐために、厳重な飛散防止対策を講じなければなりません。
仮に瓦礫の焼却処分により環境中に放射性物質が放出した場合、尼崎市民は内部被曝の問題に直面することになります。
瓦礫の広域処理をすすめると安全なのか安全でないのかの検証が未だになされていないのですから、まずはその検証を環境省に求めていただきたいと強く願います。

(3)放射能汚染検査には不備があり、安全性を確保できません
関西広域連合は、瓦礫の受け入れ基準を100ベクレル/kg 以下としていますが、瓦礫の汚染調査はサンプル調査です。セシウムは水溶性ですので、降雨後には排水溝などが高濃度になることはよく知られています。瓦礫の山の表層部をサンプル調査してもほとんど意味をなしません。瓦礫の山の底部のセシウム濃度がより濃縮されていることは十分に考えられるからです。高濃度汚染が推測される瓦礫が、サンプル調査から除外された場合、実際の汚染度よりかなり低く試算される可能性があります。
仮に、検査された瓦礫が基準値の100ベクレル/kg 以下であったとしても、焼却される瓦礫総量が増えれば、放射性物質量もそれに応じて多くなります。重量あたりの基準値を守ることは、必ずしも安全を保障しません。
 なお、瓦礫の安全性をアピールするパフォーマンスとして、瓦礫に空間線量計をかざし、上昇が見られないと主張されることがあります。瓦礫の汚染度は、空間線量計では測定できません。空間線量計が 0,01μSv 上昇するようであれば、その瓦礫は数百~数万ベクレル/kg 汚染されている可能性があります。100ベクレル/kg程度の汚染分析をおこなうには、ゲルマニウム半導体計測器での分析が必須です。

(4)焼却灰のフェニックスへの埋め立て処理は、今後300年もの間、負の遺産を残します
私たちは、焼却灰の処理方法も心配でなりません。法律によれば、100ベクレル/kg以上の放射性廃棄物は、厳重管理するための、核廃棄物処分場を要するものです。ところが環境省は今回、8000ベクレル/kg、関西広域連合は2000ベクレル/kg以下を埋め立て処理の基準としました。
しかし埋め立て処分を実施した自治体では、すでに深刻な環境汚染が確認されています。たとえば、海面埋め立てをおこなっている神奈川県横浜市の南本牧最終処分場では、今年3月の市議会で、一日あたり100万ベクレル(4ヶ月強で1億3000万ベクレル)の放射性セシウムが横浜港に放出されていたことが明らかにされました。放射性セシウムは水に溶出しやすいため、それを含む飛灰を海面埋め立てにすると、海の汚染が進む危険性が非常に大きくなります。
広く知られていますようにセシウム137の半減期は30年、およそ1/10になるには約300年かかると言われています。この間にフェニックスに埋められる放射性物質、特に水溶性の放射性セシウムが環境中に漏出しない保証はどこにもありません。仮に国が補償するとしても(そのような約束は受け付けられないと思われますが)、尼崎市民の健康被害と引き換えにはできないはずです。焼却灰の処理方法が大変深刻な問題となる広域処理の受け入れを断じて拒否してください。

(5)原子力規制法と矛盾する、ダブルスタンダード(二重基準)の問題があります
原子力規制法では、原子力施設内における放射性廃棄物の処置として、放射性セシウムでは100ベクレル/Kgをクリアランスレベルと定めています。そして、それ以上の汚染物を放射性廃棄物と規定、資格を持つ取扱管理者以外がこれを移動することも、放射性廃棄物最終処分場以外に廃棄することも固く禁止しています。この基準は安全の観点から定められています。
一方、瓦礫の広域処理について、環境省は福島原発事故後、焼却灰などを一般廃棄物として自治体が処分場に埋め立てる基準を、放射性セシウム8000ベクレル/Kg以下とし、関西広域連合では2000ベクレル/Kg以下と決めましたが、原子力施設内の基準より、原子力施設外の基準はより厳しくするべきであると当然考えるべきです。国の基準である8000ベクレル/Kgや関西広域連合で決めた基準2000ベクレル/Kgは、明確にダブルスタンダードです。
国際的には、例えばフランスやドイツでは、低レベル放射性廃棄物処分場は、国内に1カ所だけであり、しかも鉱山の跡地など、放射性セシウム等が水に溶出して外部にでないように、地下水と接触しないように、注意深く保管されています。
 国内では、群馬県伊勢崎市の処分場では1キロ当たり1800ベクレルという国の基準より、大幅に低い焼却灰を埋め立てていたにもかかわらず、大雨により放射性セシウムが水に溶け出し、排水基準を超えたという事例も報道されています。

(6)瓦礫の広域処理は国費から賄われ、被災者支援予算を圧迫します
瓦礫の広域処理には、疑問を呈している被災地首長もいます。岩手県岩泉町の伊達勝身町長は、「使ってない土地がいっぱいあり、処理されなくても困らないのに、税金を青天井に使って全国に運び出す必要がどこにあるのか。」と述べています。阪神淡路大震災では、神戸市は焼却炉を増設することにより、瓦礫処理に対応しました。岩手県陸前高田市の戸羽市長は、市内に瓦礫処理専門のプラントを作り、何倍ものスピードで処理する計画を県に相談したところ、神戸市がおこなった事例があるにもかかわらず、現行法には煩雑な手続きがあり、許可が出ても建設まで二年かかるという理由で、門前払いされたことを証言しています。
また宮城県村井嘉浩知事は今年3月7日のインタビューで「県外への受け入れ要請は引き続きやっていくが、予想以上に県内の処理が進んできたため、沿岸部同士でも分散して受け入れる。県外に運ぶよりも経費を抑制でき、放射能汚染を懸念する声も少ないと思う」、「急ぐべきは住居と仕事」と訴えています。
石巻地区の災害廃棄物処理業務では、地元の住民を1日当たり1250人雇用し、さらに、業務で用いる重機やダンプトラックなどは地元で調達し、従業員に向けて設置する食堂では地元で調達した食材を使うことを昨年の9月段階でまとめています。
 広域処理には膨大な輸送費や処理費がかかり、すべて国費からまかなわれます。しかし、それらの費用は、被災していない自治体が受け取るのではなく、被災者や被災地に直接まわすほうが、より有効な支援になります。
あわてて瓦礫を広域処理するのではなく、アスベスト、ヒ素、六価クロム、PCBなどの特別管理産業廃棄物、化学物質、重金属などを充分な時間をかけて可能な限り細密に測定し、分別し、それぞれの適切な方法に従って処理することが肝要です。今求められていることは、被災地の自治体が適切に処理できるように、瓦礫処分費用を厚く手当てすることです。全国の自治体に処理費用をばらまくことではありません。
被災地では、安全な瓦礫を防災林や防潮堤の基礎に使おうとする計画もあると言われています。
また、釜石市では、瓦礫を発電機付きの焼却炉で焼却し、エネルギーの自給を目指そうという動きもあります。
安全性を確保できれば、瓦礫は大切な資材=資源にも変わるのです。
現状は、被災地のニーズを無視した中で瓦礫の広域処理が進められており、被災地支援とは正反対に、被災地の復興の足を引っ張りかねません。もっと被災地ニーズに沿った瓦礫処理が求められています。

(7)瓦礫処分の遅れは、復興が進まないことの原因ではありません
細野豪志環境相は、被災三県の瓦礫処理が5パーセントしか進んでいないと語っていますが、広域処理に回される瓦礫は、政府計画でも瓦礫総量の20パーセントにすぎません。つまり、かりに広域処理が半分進んでも、処理率は10パーセント上がるにすぎないのです。瓦礫処分の遅れの主な原因は、広域処理が進まないことではありません。まして、復興が遅れている理由を、広域処理に求めることはできません。復興のために何をおこなうべきか、被災地の住民や自治体の声を聴き、しっかりと向き合うべきではないでしょうか。

(8)広域処理は憲法や地方自治法に抵触します
福島第一原発事故を受けての特別措置法では、「第四条 地方公共団体は、事故由来放射性物質による環境の汚染への対処に関し、国の施策への協力を通じて、当該地域の自然的社会的条件に応じ、適切な役割を果たすものとする」とあります。これは、地方自治の本旨をうたう憲法に反し、団体自治と住民自治という原則を定めた地方自治法に反します。

(9)広域処理は、国際合意に反します
放射性物質を含む廃棄物は、国際合意に基づいて管理すべきであり、IAEAの基本原則でいえば、拡散を防止して集中管理をするべきです。放射性廃棄物を焼却すると、気化した放射性物質は気流にのり、国境を越えて汚染が広がります。広域処理を進めるなら、日本は地球規模の環境汚染の責任を問われることになります。

(10)広域処理は、道義的にも問題です
福島原発事故によって発生した放射性廃棄物は、すべて第一義的な責任者である東電が引き取るべきものです。責任の所在を曖昧にしたままで、放射能に汚染された瓦礫を引き受けることは、今後のエネルギー政策をミスリードする原因を放置することにほかなりません。
現在進められつつある瓦礫処理は「がれきの処理費用は、全額国が負担。その規模は、今のところ、1兆円超で、東電は事実上免責。そして、その最大86%(補助金の財源の全額が復興国債とすれば)が、10年にもわたる後年度負担、すなわち、私たちの子供達の世代が負うことになる。これに加えて、復興増税は、今後25年続くのである」との指摘もあります。責任者への免責とその穴埋めとしての国民の負担が既成事実にならないことを切に望みます。

(11)尼崎市のおこなう被災地支援を充実させてください
尼崎市が行政を挙げて被災地支援に尽力されていることに敬意を表します。また多くの市民団体が現地に足を運んだり物資を届けたりと活躍されていることに、同じ尼崎市民として誇りに思います。
神戸市は、仙台市の地元処理のために、阪神淡路大震災で廃棄物処理を実践した市の職員と学者が行き、極力分別資源化を進めることを基本方針に処理フローをつくり、2013年度までに完了する目途をつけたとの報告もあります。濃淡はあれ、尼崎市も同じく阪神淡路大震災を経験した自治体として、大震災の経験による「知恵」と「技術」を被災地自治体に提供してこられたと推察いたします。
尼崎市はこれからも、行政間での支援とともに民間の支援活動への援助なども充実されることを希望します。

(12)瓦礫の受け入れは、尼崎市民重視の政策とはいえません
広域処理は、市内の産廃業者や運送業者にある程度の利益をもたらすかもしれませんが、ほとんどの市民はリスクと不安を背負い込むだけで、何の恩恵も受けません。
 ものづくりの街・尼崎市の輸出業者が困ることは、野田政権が、広域瓦礫処理の一貫として被曝瓦礫を用いた製品へのリサイクルを要請したことです。この要請によって、日本製の食品に加えて、機械製品や鉱工業製品などに対しても海外の敬遠が強まることは明白です。
 瓦礫処分により、放射性物質を含んだ排水などが万一瀬戸内海への流出した場合には手の施しようがありません。ぜひとも瓦礫を受け入れないでください。

(13)瓦礫焼却には、作業員や住民の健康に膨大なリスクが伴います
 日本政府はリスク基準をICRP(国際放射線防護委員会)に依拠していますが、ICRPのこの基準は、実際のデータを1/2に過小評価していることが明らかになりました。また、スウェーデンの110万人を対象にした調査結果は、ICRPが生涯にわたるがんのリスクとして公表している0.05/Svよりも約640倍も大きいことを明らかにしています。瓦礫焼却には、政府の見込みとは違う膨大なリスクが存在しています。作業員や住民の健康を最優先するための慎重な対応が強く求められます。
 現実に東京の江戸川清掃工場の作業員の方1名が0.03ミリロシーベルト(30マイクロシーベルト)被爆したとの情報もあります。尼崎市でこのような被曝事例が発生しないことを切に望みます。

(14)尼崎市としての意思形成過程での住民への説明会をぜひ開催してください。

いま被災地の瓦礫を受け入れないと主張するのは非国民とのキャンペーンも張られています。しかし、私たちは被災地の住民の方の気持ちの思いに寄り添い、支援をしたい気持ちであふれています。
尼崎市は住民への説明会を開いて客観的なデータに基づくリスクなどの説明をおこない、住民の意見を聴いたうえで、瓦礫処理を受け入れるかどうかの最終的な結論を出すべきです。結論ありきの住民への説明会ではいたずらに不信感を増幅させるだけです。東北の方への支援と尼崎市民が引き受けるリスクを充分に理解したうえで、市民が自分たちで決めていくプロセスを経て、最終的に納得するのではないでしょうか。ぜひとも尼崎市としての意思形成過程での住民への説明会を開催してください。
以上、尼崎市長への要望書です。コピー、転載、編集など自由にご活用ください。

さいなら原発尼崎住民の会:連絡先
sainaragennpatsu*gmail.com (*を@に替えて下さい)

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